2002年5月1日
アルコールと健康
アルコールと消化管病変

今回はアルコールと消化管病変についてご紹介します。適度の濃度と量のアルコールは唾液や胃酸分泌を増やしたり胃粘膜血流を増加させるため、食前のアペタイザーとして繁用されています。しかし、度を過ぎると直接アルコールにさらされる消化管では重大な病気が誘発され、40度超の濃度では消化管粘膜を強く刺激する結果、びらん(擦り傷)や潰瘍を作ります。それでは代表的な消化管病変について解説します。食道疾患;飲酒後に胸焼けを感じる方はいないでしょうか。アルコールは下部食道括約筋(LES圧)をゆるめたり食道の蠕動運動を低下させて胃酸の逆流を引き起こし、食道炎を誘発します。所謂逆流性食道炎と言う状態で、中年以降の小太りの女性に多いのですが、LES圧は加齢や肥満、コーヒー、脂肪食、チョコレートなどでも低下して、食道炎を助長します。の影響が想定されています。食道癌との因果関係が指摘されていますが、厳格に禁酒をしているイスラム世界でも食道癌が多いことから、アルコール単独ではなく、複数の因子が関与していると思われ、特に喫煙者では非喫煙者の2~4倍の発生率といわれています。
胃疾患;胃粘膜は胃酸による自己消化を防いでいる粘液で保護されているため、一般的には高濃度、大量のアルコールが急性胃粘膜病を惹起して腹痛、嘔吐、吐下血で発症します。潰瘍発生や慢性胃炎との関係は議論のあるところですが、飲酒者にはピロリ菌感染者が多いとの報告があります。
一方、20%位までのアルコール濃度ではプロスタグランディン産生を介して粘膜保護作用があるともいわれています。
一方、20%位までのアルコール濃度ではプロスタグランディン産生を介して粘膜保護作用があるともいわれています。
アルコールと発癌メカニズム
アルコールが発癌リスクを高めるか否か。疫学的には確実とまでいわれていますが、その関わり合いの程度は報告によってまちまちであり、やはり単独ではなく複雑な因子が重なり合っているようです。発癌のメカニズムを集約すると、1)粘膜の直接障害、2)アルコール代謝産物であるアセトアルデヒドによる細胞毒、3)アルコールが粘液バリアーを破壊した結果、タバコやニトロソアミンなどの外因性発癌物質による影響、4)アルコール飲料に含まれる微量発癌性物質の関与、5)アルコールによる栄養障害、6)免疫能の低下、7)フリーラジカルの発生とDNA障害、8)ミクロソーム分画内酵素を介しての発癌物質の活性化、等々があり、これらやその他の因子が複雑に絡み合って発癌のイニシエーター、プロモーターとなります。また、興味深いことに肺癌や乳癌、前立腺癌など、一見アルコールとは無関係な臓器の発癌率にも関係するなど、発癌メカニズムはまだまだ不明であるのが現状です。